ドイツ国家検定通訳翻訳士

翻訳業務について

特許請求項および明細書を日本語から英語・ドイツ語に訳す場合には,それぞれの言語で特定の表現が特許法上どのように解釈されるのかを理解しておく必要があります。よく知られている例では英語のcompriseとconsist ofの意味の違いがありますが,その他にも機能的な構成要件と解釈される言い回しや,数詞と不定冠詞の使い分けなど,特許法上大きな影響を及ぼしかねない要素は多々あります。日本語ではそのような意識なく広く用いられる「を含む」「より構成される」といった文言でも,その訳語の選択によって,ヨーロッパ・ドイツにおける訴訟・審判の進行が変わってくる可能性があります。また,単数と複数の明確な区別のない日本語からの翻訳にあたって,数の問題には特に要注意です。審査段階の出願書類を訳すのか,異議審判・無効請求訴訟における先行文献を訳すのかによっても,その判断は異なります。自社出願明細書の翻訳にあっては,侵害訴訟かつ無効請求訴訟の対応をいずれも念頭に置いた適切な判断が,出願審査から数年が経過後に始まる審判や訴訟での主張の強力な基盤となります。このような問題点についての認識を翻訳者がもっていることで,さまざまなリスクの予見や回避につながります。

EPOや裁判所に提出する先行文献の翻訳は,記載されている発明の趣旨を的確に掌握し,ドイツ語ないし英語で審判官や裁判官が技術的に理解しやすいように,適切な術語および表現を用いることが大切です。そのためには,翻訳者が該当技術を十分に理解していること,該当分野でどのような言い回しがドイツ語や英語では一般に用いられているのかを知っていることが前提となります。当方では,該当するIPC分類で同時期に出願されたEPおよびDE明細書(翻訳された明細書ではなく,英語の場合には米英の企業,ドイツ語の場合にはドイツ企業の出願を優先)を複数読んで,キーワードとなる用語や,重要な表現を確認した上で翻訳作業に入ります。

知財通訳翻訳 井上英巳