特許侵害訴訟

ドイツの特許侵害訴訟は,デュッセルドルフ,マンハイム,ミュンヘンの地裁にほぼすべて集中しており,特許権者に好意的といわれるデュッセルドルフ地裁が事件数で群を抜く存在となっています。

口頭弁論の進め方は,裁判所および裁判長によって違いがありますが,原則としては,開廷後まず裁判長から双方の請求の趣旨の確認があり,続いて裁判長の口から事件の状況(事実および法的状況)についての概要説明が行われます。裁判長によっては,その中ではっきりと心証を開示する人もいますが,争点を列挙するだけで裁判所の立場を明言しない裁判長も多いので,その話をよく聞いて,現在の裁判官の心証がどのような状態なのかを推測する必要があります。

ただ,判決が不利なものとなる見込みの当事者に対して裁判長は最初に陳述を求めてくるのが普通ですので,最初にこちら側の代理人が陳述することになった場合は,状況が不利であると考えられます。

複数の争点がある場合に,どの順番で議論を行うかはケースバイケースで,裁判所が判決に至るための最短コースとなるような順序で整理して弁論を行うのが一般的です。

侵害訴訟の口頭弁論は特に複雑な事件でもない限り,通常2時間程度で終わります。結審後,請求の趣旨の再度確認(必要に応じて修正)があり,判決言渡期日の決定で閉廷となります。その時点で,侵害判決となるか,非侵害となるかがほぼ明白な事件もあれば,どちらとも言えない事件もあります。ドイツは侵害と無効の分離主義を採用していますので,無効論が取り上げられるのは,平行して係属中の特許無効請求訴訟で特許が無効となる蓋然性が高い場合に,その判決があるまで侵害訴訟を停止するかどうかの判断においてのみです。また,裁判所が非侵害の判断をしている場合には無効論に入ることはないので,無効論があった場合には,侵害があるものと裁判所が見なしていることがわかります。

知財通訳翻訳 井上英巳